他のあらゆる業界同様、化学の世界も近年中国の進出が目立っています。で、漢字の国であるかれらはどのような化学用語を使っているの。実は筆者も結構な漢字マニアでありますので、調べてみるとなかなか面白かったりします。

 中国では元素ひとつひとつに漢字が当てられているのはわりに有名かと思います。周期表だとこんな感じです。
Periodichina
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 いや、見てると面白いですね。金銀銅や鉛みたいななじみ深い漢字もありますが、水素や窒素、酸素なんかはどうしちゃったのあなたという字に化けています。イットリウムとガドリニウムは間違えそうだなあとか、タリウムとジスプロシウムはどこかで見たことある字だなとか、いろいろ面白い。このような次第で、周期表が1ツイートに丸ごと収まってしまいます。漢字の力を感じますね。

 文字の作りとしては、いわゆる形声文字になっていることがわかります。部首が意味を表し、その他の部分が発音を表すという構成ですね。金属は金へん、非金属固体は石へん、液体はさんずいまたは水、気体はきがまえ(气)が部首になっています。で、リチウムは「里」、コバルトは「古」など発音を表す字と組み合わされている、合理的な構成です。こうして見ると金属元素ばっかりなんだなあ、ということが一目瞭然ですね(ちなみに金へんはフォントの関係で日本風の字になっていますが、実際には簡体字の金へんが使われます)。で、塩化ナトリウムは「氯化钠」という表記になります。

 昨年名前が決まったばかりの112番元素コペルニシウムにも、さっそく「鎶」の文字が当てられています。最近、114番元素に「フレロヴィウム」、116番元素に「モスコヴィウム」の名が提案されたというニュースがありましたが、正式決定次第これらにも「金へんに不」とか「金へんに毛」みたいな感じで新しい字が作られるのでしょう。新しい漢字がこうして作られていくという感覚は非常に面白いです。

 で、何も漢字一文字で表されるのは元素名ばかりではありません。有機化学分野においてもいろいろな漢字が存在します。たとえばアルコールは「醇」。芳醇の醇ですね。「酒」を表す「酉」が部首なのはいかにもそれらしいです。ちなみにエーテルは「醚」、ケトンは「酮」、アルデヒドは「醛」、カルボン酸は「羧酸」なんだそうです。エステルが「酯」なのは、やはり「酸」と「脂」を合わせているのでしょうか。
crown
クラウンエーテルは「冠醚」。酒の名前のようです。

 で、アミンには「胺」という、あまり見たことがない字が当てられています。部首が肉づきなのは、肉の腐敗で発生するからとかそんな理由なんでしょうか。その他、ニトリルには「腈」、ヒドラジンには「肼」、ヒドラゾンには「腙」、オキシムには「肟」など、いろいろな官能基にきっちり漢字が当てはめられています。アミドはどうかというと、「酰胺」だそうで、「酰基」はアシル基の意味ですからまあ合理的です。

 こうして単独の漢字が当てられているのは官能基ばかりではありません。いろんな芳香環にも漢字があります。たとえばベンゼンは「苯」。部首には芳香族らしく、くさかんむりが投入されています。
benzene

 が、これだけではない。下記のような多環式芳香族化合物にも漢字がひとつひとつ存在します。やはり形声文字なのですね。
chinaroma1

chinaroma2


 なるほどなあ、と思いますね。じゃフラーレンとかナノチューブはどうなの、と思ったらそれぞれ「富勒烯」と「碳納米管」だそうです。「くさかんむりに球」とか「くさかんむりに筒」みたいなのを期待したんですが違うのですね。ピセンやクリセンに漢字があって、こっちにないのは今ひとつ納得行かない感もありますが。

 この辺、調べ出すとなかなか面白いのでまた続きます。