木走日記

場末の時事評論

メディアがほとんど取り上げない今回の原発事故の不幸中の幸い


 東日本大震災から一夜明けた3月12日午前6時すぎ。菅直人首相は陸自ヘリで官邸屋上を飛び立ち、被災地と東京電力福島第1原発の視察に向かいました。

 「総理、原発は大丈夫なんです。構造上爆発しません」。機内の隣で班目(まだらめ)春樹・内閣府原子力安全委員会委員長が伝えました。

 このわずか9時間後に福島原発1号機の建屋が吹き飛ぶことになります。

 大量の放射性物質が大気に放出された瞬間であり、その後2号機、4号機と建屋が吹き飛び、数日間に渡り大量の放射性物質が撒き散らされます。

 全電源消失は理論上ありえないから想定しない

 原発は構造上爆発しない

 日本の原発は安全である

 これらの「原発安全神話」が吹き飛んだ瞬間であります。

 その後、1、2、3号機はメルトダウン炉心溶融)が起こっていたことが判明、原発事故としては最悪のレベル7だったことが公となります。

 現在汚染された稲わらによる汚染牛問題が盛んに報道されていますが、これらはおもに建屋爆発の3月12日から10日間ほどの間に原発周辺地を放射性物質が汚染したものですが、汚染地域は、当時の風向きや降雨状況でまだら模様に偏在することになります。

 しかし、ここでメディアがほとんど取り上げない事実があります。

 日本にとり今回不幸中の幸いだったのが福島第一原発の立ち位置だったことです。

 ご存知の通り日本列島には強い偏西風が耐えず発生していますので大気は西から東へと大きく移動しています。

 原発の東側は太平洋なので幸いにも放射性物質の大部分が太平洋方面に拡散していったことが推測されます。

 ここに3月12日から23日までの12日間、いかに放射性物質が拡散していったのか、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)のシミュレーションが以下で動画で確認できます。

http://www.irsn.fr/FR/popup/Pages/animation_dispersion_rejets_19mars.aspx

 放射性物質の大部分が太平洋方面に拡散していっただろうことが視覚的に確認できます。

 それでも福島を中心に一部土壌が汚染されていますが、人口密集地が汚染されなかったことは、この福島原発の立地に幸いされた面が大きいでしょう。

 それでも原発の北西部を中心に広域で土壌汚染や農業汚染が広がっており、何万もの人々が強制避難を強いられており、10兆とも予測される賠償費用が発生するほどの深刻な被害状況であります。

 仮に西日本の原発で同規模の放射能汚染が起こったときのことを想定するといったい、損害はいかほどになるのか、ここは冷静に検討しておく必要があります。

 仮に西日本の玄海原発浜岡原発放射性物質が漏れそれが偏西風で運ばれれば、前者なら瀬戸内地方から関西地方、後者なら太平洋ベルト地帯の工業生産地域や首都圏にも届く恐れは十分にあります。

 そのときの避難対象地域の大きさは今回の比ではないでしょうし、避難する対象人口はどれほどの数になるのでしょうか。

 人数によってはそもそも避難地を確保できないかも知れませんし、東京も入ったら首都機能喪失という事態も起こりうるかも知れません。 

 ・・・

 私は今回の原発事故を契機に、すべての原発でより科学的なリスク検証をすれば、地震列島日本に54基もの原発をしかも世界的地理感で鑑みれば人口密集地とこれほど隣接している場所に集中的に稼動させている状況は極めて危険であると考えます。

 全電源消失は理論上ありえないから想定しない、原発は構造上爆発しない、日本の原発は安全である、これらの「仮説」は今回の原発事故発生ですべて反証されました。

 科学の歴史は真理の探究にあります、天道説をひっくり返したガリレオの地動説、ニュートン万有引力の法則では説明できない水星軌道のわずかな揺らぎを完璧に解明したアインシュタインの相対性原理など、そしてそれはそれまでの常識という「仮説」がいとも簡単に崩れ去ってきた歴史でもあります。

 「仮説」が反証された以上、新しい「仮説」を立てそれを検証していく態度こそ科学的なのであります。

 多くの人々が消極的原発推進派から今回の事故を契機に脱原発派へと態度を変えたことは科学的に当然なことであると、私は考えます。


 ここに、東京大学地震研究所などが、おおよそ過去30年間の世界で発生したマグニチュード5以上の地震を地図上にプロットしている、過去に世界で地震震源になった地点の分布図があります。


http://item.rakuten.co.jp/tcgmap/10000007/

 ほとんどのプレート地震がプレート境界地域で群生していることが見て取れます。

 環太平洋火山帯に属する日本列島付近を見て下さい。

 赤いプロットが集中していて日本列島の輪郭すら見ることができません、震源で覆われているのです。

 我々の有する現在の科学力では残念ながら地震を予知することはできません。

 そして次に日本列島のどの地点で大地震が起こるのかも予知できません。

 そのときどの原発でどのような事故が発生しうるのか、福島原発事故が起きた現在、事故は必ず起こるという当たり前の科学的立場で最悪の想定も含めて原発の事故リスクを考えるべきです。

 そのようなリスクが可能性としてある以上、脱原発政策推進は私は科学的であると考えます。

 「地震の巣」と呼ばれる環太平洋火山帯上にある日本列島では原発稼動は危険すぎるということです。

 なぜかメディアがほとんど取り上げませんが、今回の事故は原発立地の点では不幸中の幸いな面があったのです。

 放射性物質のほとんどが偏西風により太平洋に運ばれたからです。

 それなのにこの被害です。

 少しの想像力があれば今回同様の事故が西日本の原発で起これば、偏西風により列島は放射性物質に広範囲で汚染され被害は今回の比ではないことは安易に理解できるはずです。



(木走まさみず)