
- 宇宙は科学者の予測を上回る速さで膨張しており、ある天体物理学者はそれを「宇宙論の危機」と呼んだ。
- 新しい望遠鏡の技術とNASAのハッブル宇宙望遠鏡のデータを使った新たな研究でも、この問題が確認された。
- 科学者たちは、彼らの理論と測定値の間の矛盾を説明できていない。別の研究者によると、この謎は「新しい物理学」につながる可能性があるという。
宇宙は科学者の予想よりもはるかに速く膨張しており、その理由は誰にもわからない。
研究者チームは、新しい望遠鏡技術を使用して収集されたデータでこの問題を確認した。先月、イギリスの王立天文学会の月報で発表された論文によると、宇宙の膨張速度の正確な測定値は、科学者が何十年も使用してきた標準モデルと一致しない。
「宇宙論の危機だ」と、宇宙物理学者で論文の共著者であるクリス・ファスナハト(Chris Fassnacht)氏はプレスリリースで述べた。
今年4月に発表された他の研究も同じ結論に達している。「この差は拡大しており、今では偶然として却下することは不可能な域に達している。偶然ではあり得ない」と、2011年にノーベル物理学賞を受賞したアダム・リース(Adam Riess)氏は当時のプレスリリースで述べた。
彼は、これらの発見は「ここ数十年で最もエキサイティングな発展になるかもしれない」と付け加えた。
ハッブル定数の謎
宇宙は膨張していて、銀河間の距離もどんどん広がっている。
科学者たちは何十年もの間、宇宙の膨張速度を測定しようと試みてきた。その数はハッブル定数と呼ばれている。
研究者は、約138億年前のビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)研究することにより、宇宙の歴史を解明しようとしてきた。CMBを研究する科学者たちは、過去を見ている。たとえば太陽から地球までは光の速度で約8分かかるので、地球上で見えるのは8分前の太陽だ。つまり科学者が非常に遠くにある物体を見るということは宇宙の始まりを見ていることになる。
これらの観察に基づいて、科学者たちは、宇宙がビッグバンの直後に急速に膨張したことを発見した。その後、不可解で目に見えない暗黒物質の重力によって膨張は減速した。

しかし彼らは問題に直面した。
測定結果は、これまで考えられてきたモデルの予測よりもはるかに速く膨張していることを示している。リース氏の研究によると、宇宙はCMBの観測に基づく計算で予測された値よりも9%速い速度で膨張している。
「これは2つの数値が一致していないというだけではない」と彼は当時言った。
「我々は根本的に違うものを測定しているのかもしれない。宇宙が現在どれだけ速く膨張しているかと、宇宙が物理学的にどれだけ速く膨張するべきかに基づいた予測、これらの値が一致しなければ、何かを見落としている可能性が大きい」
問題は見つかったが解明には遠い

今回の研究では、ハワイにあるケック天文台の最新の望遠鏡システムを使用した。この装置は、地球の大気によって引き起こされる歪みを補正し、空にある物体の非常に鮮明な画像を返すことができる反射鏡を使用している。
研究者たちは、この望遠鏡をクエーサーと呼ばれる明るく活発な3つの天体に向け、重力レンズと呼ばれるプロセスを使ってクエーサーを調べた。重力レンズとは、光が地球に向かう途中で非常に重い物体の周囲を移動する際に、光が曲がって進むこと。銀河のような巨大な物体が光をさまざまな方向に曲げることで、科学者は同じクエーサーを、わずかに異なるゆがんだ形(地球に到達する時間が違う)で見ることができる。そして、多数の画像を比較して、クエーサーの光が到達するまでの時間の違いを計算し、その間の宇宙がどれだけ膨張したかについての情報を収集する。

今回の結果は、これまでの研究と同様に、宇宙が標準モデルの予測よりも急速に膨張していることを示している。研究者らはこの結果をハッブル宇宙望遠鏡のデータと比較したが、結果は同じだった。
「初期の宇宙と後期の宇宙の膨張速度の違いは、現在の標準モデルには何か欠けているものがあることを意味する」と、天体物理学者のシェリー・スユ(Sherry Suyu)氏は最近の研究についてプレスリリースで述べた。
「それはたとえば、ダークエネルギーや、新しい相対論的素粒子、まだ発見されていない新しい物理学かもしれない」

科学者たちはその欠けている部分が何なのかわかっていない。原因は、宇宙の約68%を占める不可解で目に見えない力、ダークエネルギーかもしれないと考える人もいる。このエネルギーは、暗黒物質の重力を圧倒しながら、膨張を加速させることができた。
ファスナハト氏は、宇宙の理解の中で欠落している部分を探すために、科学者たちが新しい望遠鏡の技術を使って、より正確なデータを集め続けることに期待していると述べた。
「もしかすると、より完全な宇宙のモデルの構築につながるかもしれない」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)