2秒で感染、24日潜伏、節目は2月20日…中国の専門家が指摘する新型コロナウイルスの本当に重要な数字とは

新型コロナウイルス

出典:中国国立病原体ライブラリ

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が止まらない。

中国・湖北省では診断基準を変えたこともあり、2月13日発表では感染者、死者数が激増した。

同日夜には日本で初の死者が出て、「日本でも隠れ感染者が大勢いるのでは」との不安も高まっている。

メディアでは連日、中国の感染者数と死者数が速報され、感染者は近く10万人を突破する可能性が高い。

だが、中国での拡大が広がっているのかは、それらの数字からは単純には判断できない。情報に振り回されている人たちのために、あまり報道されていないが、今後を見通すうえで有力なヒントになる数字やケースを紹介したい。

判定基準の変更で感染者激増

baidu

増加のペースが緩やかになっていた新型肺炎の感染者数は、13日発表分から激増に転じた。その理由は?

バイドゥリアルタイムマップより

中国の新型肺炎感染者数と死者数は2月13日に1万5000人増えた。それまでは1日2000~3000人のペースで新規感染者が確認され、そして増加ペースはこの数日鈍化傾向にあった。いつ収束するかの話題も出始めた中で感染者数が急伸したのは、武漢市のある湖北省で判定基準を変更したからだ。

これまでは日本でも行われているPCR検査の結果で確定診断していたのを、肺のコンピューター断層撮影装置(CT)による画像検査の結果、肺炎の症状が認められれば、新型肺炎と診断されることになった。

心臓には良くない感染者数の急増だが、中国のSNSでは肯定的な受け止め方が多い。

「数はあまり重要ではない。真実を伝えてくれることが大事だ」

「やっと実数を出してきたか」

「本当につらい数字だが、診察を待っていた人たちが判定されたということだろう。頑張れ!」

武漢市では医療体制がまったく追い付かず、治療どころか検査を受けるまでに相当な時間を要して悪循環を招いていた。

2月に入り2つの重症者向け病院が超突貫工事でオープン、公共施設が次々に軽症者向け病院に変わり、1日1万人の検査が可能な「火眼ラボ」も稼働を開始した。

各地から2万人の医療スタッフが武漢入りし、医療体制が拡充したタイミングでの、今回の判定基準の変更と感染者・死者数の増加は、「グレーだった人が黒に変わり、治療を受けられるようになる」というポジティブなメッセージにも受け取られたのである。

「第2の武漢」を出さない

人民解放軍

2月13日には人民解放軍の医療スタッフが武漢入りした。

REUTERS

ただ、武漢は中国の感染者、死者数の大半を占めているため医療のリソースも集中投下されているが、武漢の周辺都市は規模が小さいため、体制が貧弱だ。

13日には湖北省と武漢市のトップが交代した。その前日には初動対応が遅れたとして免職処分になった湖北省の元役人たちが病院を訪れ患者に謝罪するシーンもテレビで流れている。

湖北省がかなり厳しい状態にあることは周知の事実であり、13日をもって膿を出しきるフェーズに変わった。そう見ることができる。14日朝の発表では湖北省の13日の感染者は4823例、死者数は116人とやや落ち着いたことも、それを裏付けていると言える。

だからこそ、湖北省の数字は全体を考える上では意味が薄くなっている。

それなら何に注目すべきか。政府にとってより重要なのは、中国で「第二の武漢を出さないこと」に尽きる。でなければ、湖北省を封鎖した意味もなくなってしまう。

新型肺炎で国の専門家委員座長を務め、国民からも信頼を寄せられる鐘南山氏は、2月7日、「武漢は漏れなく発見し、隔離する」一方で、「他のエリアは早期発見し、隔離する」と語った。

では、「第2の武漢」のリスクをはらんでいるところはどこか。

上海に近い無錫市は9日、湖北省だけでなく、浙江省、広東省、河南省、湖南省、安徽省、江西省から来る人々を「出禁」にした。いずれも感染者がかなりの人数に上っているエリアだ。日本政府は13日、感染者が1100人を超えている浙江省からの入国を制限したが、河南省、広東省でも感染者は1200人を突破した。

湖北省以外では減少

いま、湖北省で初期対応を怠った役人の処分が相次いでいるが、それは地方政府にとって大きなプレッシャーとなっている。

多くの都市が市民の生活を厳格に管理し、買い物の頻度まで決めるところも出てきた。

ロイターの報道によると、習近平国家主席は2月初旬、地方当局の高官に対し、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ取り組みは行きすぎており、国内経済に悪影響をもたらしていると警告したというが、死者を増やせば自分たちの首が飛ぶ。

その必死の努力の甲斐か、国家衛生健康委員会によると、湖北省以外の新型肺炎の新規感染者数は12日まで9日連続で減少している。3日には831人いた新規感染者は11日には377人にまで減った。

このまま他のエリアの感染者数が減少を続け、死者数を最小限に抑えられるかが、中国だけでなく日本、世界の先行きを大きく左右することになる。

ちなみに、各都市の新型肺炎の感染者数は以下のサイトで見ることができる。

英語:ジョンズ・ホプキンス大学の研究者チームがつくったリアルタイムマップ

中国語は漢字なので分かりやすいかもしれない。いくつもあるが、ここではバイドゥ(百度)のサイトを紹介する:バイドゥの新型肺炎リアルタイム情報

4月収束へのロードマップ、分水嶺は2月20日

鐘南山

新型肺炎問題で中国の専門家委員のトップを務め、マスクの付け方から収束の見通しまで日々答え続ける鐘南山氏。

REUTERS/Thomas Suen

さて、中国国民の拠り所である鐘南山氏はロイターのインタビューに応じ、「4月に収束することを期待する」と述べた。収束の時期が明言されたことで、インタビュー公開後の12日(米国時間)には、株価も上がった。同氏は中国ではより詳細に収束へのロードマップを説明している。

鐘南山氏は2月、「感染収束はいつごろか」との質問に対し、「2月20日前後が大きな節目」と答えている。

武漢が封鎖されたのが1月23日で、ほどなく武漢のある湖北省全体が事実上封鎖された。言い換えれば、その前日までに、新型肺炎に感染しながらも確定診断を受けないまま、武漢を出た人が相当数に上るということだ。潜伏期間が最長14日であることを考えると、2月5日ごろまでは武漢由来の感染者が海外を含めた各地で増え続ける。そこで感染のチェーンを断つことができれば、ウイルスとの戦いで優位に立つことができると、鐘南山氏は考えているのだ。

2月5日前後の感染者がより感染を広げているかが分かるのは、最長潜伏期間14日を経た2月20日前後という論理になり、2月20日以降も落ち着きが見えなければ、鐘南山氏の希望は実現が危うくなる。同時に、このロードマップを知ると、この2日間の湖北省での感染者急増も、「既定路線」と捉えることができるだろう。

SARSとの比較は意味がない

日本

日本ではクルーズ船で検査をした検疫官も感染した。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

新型肺炎がニュースになり始めて、たびたび登場するのが「SARS(重症急性呼吸器症候群)より〇〇」という表現だ。

例えば日本での報道を見ると、1月は「SARSのようにはならない」「SARSより感染力が弱い」という表現が多かったが、1月29日時点で「感染者数がSARS超え」し、2月9日に死者もSARS超えと報じられた。ちなみに、感染者数は既にSARSの10倍に達している。

実際、新型コロナウイルスとSARSの遺伝子は類似性があるとも判明しているし、鐘南山氏も、メディアに質問されると、「新型肺炎の致死率は、季節性インフルエンザよりは高いが、SARSよりはかなり低い」と答えている。

私自身も1月24日に、「『新型肺炎の感染規模はSARSの10倍』香港の専門家、『武漢はすでに制御不能』と絶望」という記事を掲出している。自分も反省が必要だが、メディアは深刻さの物差しとして、過去の大きな事象を使う癖があり、例えば「バブル超え」「リーマン・ショック以来」もその一例だ。

だが、中国の専門家が最近しきりに強調するのは「SARSはSARS、新型コロナウイルスは新型コロナウイルス」ということだ。

中国の進化が感染を拡大

国家衛生健康委員会の専門家の一人であり、新型肺炎対応で武漢入りしている李蘭娟氏は、早い時期から「新型肺炎とSARSは比較できない」とメディアをたしなめている。その理由は、拡大の範囲や重症化のしやすさ、致死率は、ウイルスの凶暴性だけでなく、環境や時代背景にも左右されるからだという。

李蘭娟氏は「我々はSARSを経験し、知見を重ねている。清潔さも当時とは違い、医療機器や技術の進展も大きい」と語った。

たしかに鐘南山氏も李蘭娟氏もSARSの現場を知る専門家であり、だからこそその言葉には重みがある。もちろん日本でも中国でもSARSの経験者が新型肺炎で駆り出されているから、どうしても比較論になる面もあるのだが。

そして知見の蓄積や医療設備の進展は良い進化だが、望ましくない進化もある。中国人の消費力向上と旅行ブームだ。ウイルスは人の器を借りて列車にも飛行機にも乗り、国境を越える。まさに今回の封じ込めを難しくする要因となった。

武漢はSARSの教訓を生かす間もなく制御不能になってしまったが、それ以外のエリアでは徹底した隔離対策が取られ、李蘭娟氏の言葉通り、知見が生かされているとも言える。

そもそも、日々フェーズが変わるこの時期を、17年前のSARSと比較するのも無理がある話だ。SARS流行時も、最初の数カ月は情報が隠ぺいされ大混乱だった。

そして日本は国内でSARSの感染者が出ていない。経験していないものと比べて怖がったり油断するよりも、目の前にあるデータや現実を冷静に見るべきだろう。

中国の専門家は「2秒でも感染する」

武漢の病院

武漢の病院の新型肺炎専用ICU。医療体制はかなり拡充しつつある。

REUTERS

さて、新型コロナウイルスの感染力がかなり強いことは、この数日でかなり周知されてきただろう。

中国のこれまでの調査では、集団感染の多くは家族感染であることが判明している。

13日には北京市の記者会見で、一緒に外食した家族親戚7人全員が新型肺炎に感染した事例が紹介された。礼拝、職場、サークル活動など人が集まるあらゆる場所で、感染が報告されている。武漢市の精神病院では患者50人、医療関係者30人の計80人の院内感染も発生した。

感染経路はせきやくしゃみなどで飛び散った唾液などの飛沫(ひまつ)を通じて感染する「飛沫感染」や、ウイルスが含まれた飛沫が物体に付着し、それに触れることから感染する「接触感染」が認められている。接触感染は、付着する対象によっては最長で1週間、平均で5日ウイルスが生存するとの報告もあり、2月前半には「接触を防ぐエレベーターのボタンの押し方」に大きな関心が寄せられた。

2月4日には新型肺炎と診断された浙江省の男性が、「野菜売り場で買い物をしている15秒の間に感染した」可能性を報じられ、中国全土が震撼した。私は半信半疑だったが、その後、北京大学第一医院感染疾病科の王貴強主任が新華社のインタビューで、「ウイルスの感染力は強い。15秒で感染は十分に可能で、何も対処していなければ、2秒で感染もありうる」と述べた。

現在、精査中なのが排せつ物から感染する経口感染(糞口感染)だ。

武漢大学人民病院が患者の便からウイルスが見つかったと報告し、政府の衛生当局も記者会見で、「まだ断定には至っていないが、経口感染の可能性は高い」との見解を出した。2月13日にも、鐘南山氏の研究チームが広東省の記者会見で、患者の便からウイルスが検出されたことを報告した。経口感染の有無は確定していないが、今後正式に認められる可能性が高い。

このほか、2月8日には上海市民生局の記者会見で、専門家から気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子を通じて感染するエアロゾルの可能性が指摘されていることが明かされた。

潜伏期間は最長で24日

スーパー

国民の生活を支えるスーパーや飲食店の店員も命がけの仕事になっている。

REUTERS

中国はとにかく感染を食い止めないといけないので、感染経路については可能性が生じた時点で公表し、感染者が出たエリアも地図アプリで見られるようになっている。この点は日本とかなり違う。

私は毎日国営テレビ、人民日報、環球時報などのニュースをウォッチしているが、毎日新しい「可能性」が提示されるのを見て、「要するに普通に生活していたら感染するんだな」と理解することにした。

厚労省などはかなり長い間、「感染しにくい」との見解を維持していたが、それはおそらく、感染者の実態が分からないまま判断していたからだろう、と今は思う。

また、中国の感染者1099人を分析したレポートによると、潜伏期間は平均3.0日。最短は0日、最長24日だった。中国の専門家は「たった1人」と例外的であることを強調したが、感染した人が無症状で24日も動き回ることを考えると、このウイルスの厄介さがよく分かる。

とことん感染事例を追うことで感じるのは、新型コロナウイルスはある意味「何でもあり」。今後もどんどん情報が更新されていくだろう。だから早めに対処して、重症化を防ぐことが大事になる。

湖北省以外のエリアの致死率は1%未満で、1099人を調査したレポートでは15%未満の感染者は0.9%と紹介された。政府関係者が「死者は高齢者が大半なので、若い人は心配しなくていい」と発言した時には、高齢者が身内にいる人々から大ブーイングを浴びたが、誰もを死に至らしめるウイルスではない、ということも分かってきている。

ウイルスは気づかぬうちに蔓延する

心してほしいのは、ウイルスは気づかぬ間にすぐそばに迫ってくることだ。

私は日本で最初の感染者が確認された1月16日、たまたま上海出身の友人と食事していた。「新型肺炎心配だね」と話しかけると、彼女は「でも武漢の話だから」と興味なさそうだった。その友人だけでなく1月中旬に会った中国人は皆、「武漢の話だから」と他人事だったが(中国は広いのだ!)、それは今や世界中の話になってしまった。

日本人にとってもまったく同じだ。みな「コロナ怖いねえ」と言いながら、かなりの部分では他人事と思っている節がある。だけど新型コロナウイルスは、既に日本を漂っている可能性が高い。そしてウイルスより厄介なのは、現状まだ新型肺炎の検査の網が狭すぎて、それっぽい症状が出ても簡単には検査してもらえないことだ。しかも患者1099人のレポートによると、最初の診察時に発熱していた人は半分もいなかった。私たち日本人の前に最初に立ちはだかる壁が「検査体制」であることは、感染初期の中国と同じなのかもしれない。




浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。現在、Business Insider Japanなどに寄稿。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。

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